今回、いただいたご質問は法律的な見解が必要なため弁護士の大江哲平先生にお話を伺いました。

大江 哲平先生
大江哲平

2002年から特許事務所で翻訳者(日英、英日)、弁理士として勤務。
その後、松下電器産業(現パナソニック)株式会社・知的財産部門勤務、法律事務所勤務を経て株式会社IP Bridge所属(弁護士登録番号 45432)。

新郎新婦さまからの質問

今回は外部持ち込みをしようとしたところ割引が無効になるといわれた新郎新婦さまからいただいた質問です。元ウェディングプランナーの土屋が、大江先生に伺いました。

引き出物を持ち込もうとしたところ、契約時に結婚式場から提示してもらった特別値引きの50万円が無効になると言われました。確かに結婚式場を契約する段階でそのような説明はあったのですが、契約段階では外部のネットショップで購入すると安くなることや、式場では購入できない商品が売っていることなどを知りませんでした。実際には、外部のショップの方が安く、魅力的な商品が多いので外部のショップで購入したいと考えております。やはりこの場合は50万円の値引きはあきらめなくてはならないでしょうか?

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

契約する前に事前の説明があったり、契約書の内容に記載があれば結婚式場側の言い分が通りそうな気がします。しかし、新郎新婦さまが購入したい商品を動機付けにして消費者が不要な商品を無理やり購入させるような、いわゆる「抱き合わせ販売」などに該当したりはしないのでしょうか?

弁護士の大江先生大江先生

「抱き合わせ販売」とは、独占禁止法が禁止する「不公正な取引方法」の一種です。 今回のケースで言いますと「相手方に対し、不当に商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引をするように強制すること。」をいいます。

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

結婚式場が、新郎新婦さまに対して不当に商品やサービスと合わせて結婚式場や結婚式場の取引業者から購入することを強制してはいけないという事ですね!

弁護士の大江先生大江先生

今回のケースでは、結婚式場側は挙式に関する契約に際し、出席者に渡す引き出物を合わせて購入した場合には50万円値引きする、という条件を提示して商品の購入を勧誘していますが、必ず購入しなければならない(購入しない人には結婚式を挙げさせない)わけではありません。 新郎新婦さまに対し、式場から引き出物を購入することを「強制」していないため、ただちに独占禁止法が禁止する抱き合わせ販売には該当する訳ではないと考えられます。

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

ただちに該当する訳ではないと言いますと、該当するケースも考えられるのでしょうか?

弁護士の大江先生大江先生

この場合、新郎新婦さまが受けたい有利な条件である「値引き」と結婚式場から購入する引き出物の抱き合わせが論点です。 引き出物を持ち込むことで解消されてしまう値引き金額が、かなりの額で事実上「持ち込み」の選択肢がなくなってしまうほどの内容だとすると「強制」と考えられることが出来るので独占禁止法が禁止する抱き合わせに該当する可能性があります。

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

たしかに結婚式場からすると、沢山買ってくれた人に高い割引きを提供するのは一般的な考え方の気もいたします。しかし、このような場合、結婚式で使用する一つのアイテムである引き出物を持ち込んだだけで全ての値引きが無効になるのは少し極端な気がします。 例えば全体の金額に対して占める引き出物の金額の割合分の値引きが無効になるのであれば理にかなっている気がします。今回のケースで考えた時、引き出物を持ち込むことで新郎新婦さまが失ってしまう値引きの妥当な金額について、法律で定められたりはしていないのでしょうか?

弁護士の大江先生大江先生

確かに、引き出物を持ち込みたい新郎新婦さまの立場からすると、50万円の値引きが全額なくなってしまうのは痛い出費ですし、納得しがたい気持ちも分かります。しかし残念ながら、消費者保護のための法律である消費者契約法にもこのようなケースを想定した規定はないように思われます。 消費者契約法に、違約金の定めを制限する条項はありますが、今回のケースは契約前の見積もりの段階で、値引きの条件を知らされた上で引き出物を式場から購入するか、持ち込むかの選択ができるという内容で契約するわけですから、引き出物を持ち込むという選択肢をとることを契約違反とは評価できず、したがって50万円余分に支払うことについて、「違約金」であるということも困難であると思われます。

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

今回のケースで言うと契約内容に含まれている以上は、その契約内容を覆すというのは難しいという事ですね! 持ち込みをしたら値引きが無効になる旨の案内をするときは、合わせて「自分たちが購入するであろう引き出物」を新郎新婦に対して事前に提示するのが自然だと思います。しかしほとんどの結婚式場は、どのような引き出物が購入できるか事前に案内することはないように思います。このように何を買うのか(どのような商品が購入できるのか)がわからない状態で、ただ値引きが無効になるというような契約は可能なのでしょうか?

弁護士の大江先生大江先生

挙式に関する契約において、式場から引き出物を購入するか、持ち込むかによって異なる料金を設定しています。そして式場から購入する場合に値引きを設定できるのは、式場が引き出物を提供する事業者から「協賛金」といったマージンを受け取ることができるためであると考えられ、このような契約内容が直ちに悪いとはいえないように思われます。 そうすると、具体的な引き出物が決まっていない、挙式に関する契約の時点であっても、式場から引き出物を購入した場合に限り値引きを行うという契約内容とすることが、直ちに顧客に一方的に不利であるとまではいえず、したがって、そのような契約内容を無効とすることはできないように思われます。

元ウェディングプランナー土屋のイラスト土屋

やはり、契約前に内容をしっかり確認して契約することが大切なわけですね。

弁護士の大江先生大江先生

はい。その通りだと思います。